夜の部屋

 

建物が怖ければ、出ればいい
街が怖ければ、去ればいい
夜が怖い時はどうすればいい?
夜とは壁であり
屋根であり
そしてひとつの部屋である
夜という部屋に出口は無い
逃げても夜
隠れても夜
じゃあ、朝が来て、ここが部屋でなくなればいい
……建物から出ても、街を去っても
朝が来ても怖い時はどうすればいい?

 

 

誰か私の代わりに叫んで

 

誰か私の代わりに叫んで
お願い助けて、声が出せないの
思いっきり叫ぶことが出来たらせめて
この煮え切らない不安感と恐怖が消え失せるのに
だけどそのために大きく息を吸ったところで
声を出したら見つかることに気付いた
コイツは目が見えないんだ
だから、誰か私の代わりに叫んだらいい
そっちにいけ……
そっちにいけ……
誰か私の代わりに死ねよ

 

 

夢でしか会ったことのない人

 

貴方に会いたいのに何処にいるのかわからない
夢では何度も会ったのに
現実には、会った場所すら何処にもない
貴方がいない
また眠ってから貴方と出会う
そうして決まり事のようにこう零す
今日も貴方に会えませんでした
貴方は笑って
そうして決まり事のようにこう返す
おはよう……
その言葉の意味を、私は知らない

 

 

私が見ていない間に流されて行け

 

私が見ていない間に流されて行け
知らない間に流されて行ってしまえ
見て見ぬフリですべて解決
知らなかったことにすればいい
見なかったことにすればいい
私がよければ、それでいい
だってそれ以上はもう乗れないのだから
さあ早く
そのボートで流されて行って
ずっと流されれば、いずれ岸に着く
ここはもうすぐ駄目になる
いいから早く!
私は知らなかったの!
見ていなかったの!
私がいいって言ってるんだから、いいの

 

 

ここよりもっと暗い場所

 

これから入ろうとしている部屋より
今までいた部屋が怖い
これから入る部屋は
これから電気をつける
今までいた部屋は
これから電気を消さなければならない
次の部屋に入るため
一瞬だけど
真っ暗闇に背を向けなければならない
ほんの油断した隙に
ここよりもっと暗い場所に
引きずり込まれてしまいそうな
そんな得体の知れない不安感が
ゆっくりと、肩にもたれかかって来て

 

 

その指はあまりに細すぎて

 

その指はあまりに細すぎて
とてもじゃないけど見てられない
その指が折れるのを見てしまいそうで
だけど見ずにもいられない
僕の見ていないところで
いつの間にかその指が汚れてしまいそうで
だからお願い
その手で重いものを持たないで
その手で汚いものを触らないで
僕がいても、いなくても

 

 

Emerald City

 

私は都会にやって来た
綺麗な街だと思った
でも、あっという間に帰りたくなった
夢に憧れて自分からやって来たというのに
まるで無理やり飛ばされて来た気分だ
すぐに寂しくなる私の癖なのだろう
でも
何かすることがあって来たのだ
それは守らなければならない
とりあえず新しい家に住んだ
わからないことだらけだ
新しい仕事を始めた
わからないことだらけだった
やがて新しい服を買った
新しい友達ができた
今まで食べたことのない食べ物も食べて
だんだんお金も貯まってきて
昔から欲しかった物も、今欲しくなった物も
容易く手に入れられるようになった
今までに話したことのない言葉使いになった
今までしたことのない化粧もするようになった
幸せだと思った
こんなふうだったっけ?
何か忘れてないっけ?
あの日、帰りたいと思っていた自分
実は今でも帰りたいと思っている自分
新しい友達も、とても大切な存在だけれど
本当に会うべき人たちもいる
帰る場所がある
忘れてはいけない故郷
思い出した
忙しいを言い訳にして
帰れないひとになったつもりでいた
でも
私は帰りたい時にいつでも帰ることが出来る
何かの物語の主人公のような
偉い人にお願いしたり、条件を課されたり
誰かをやっつけたりする必要もない
……たまには帰ろうか
そう思った瞬間
もう身支度は整っているのかもしれない
銀色の輝きが、3回またたいた