なるようになった人生を受け入れるしかない

 

なるようになった人生を受け入れるしかない
今やっている仕事が楽しくても、楽しくなくても
なりたかった将来の夢が叶っていないことを、ふとした瞬間に思い出しても
やりたい趣味が満足にできていなくても
そのせいで失った特技や人間関係があっても
もう二度と会えないひとがいるとわかっても
あの時、ああしていたら、していなかったら、どうなっていただろうと
またふと思う瞬間があって、それが胸に突き刺さっても
生きなければならないのだ
だから
受け入れるしかない、なるようになった人生を、そのために
一緒に暮らすひとに稼いだお金をあげるために
自分の趣味に必要だったはずの時間もあげるために
見たいテレビを我慢して
好きなものを我慢して
居場所は失って
電気代を払って
水道代を払って
あとガスと
ローンと
納税のために
体力と思考力を費やし
理不尽な言いがかりの責任をとるべく毎日早起きして
頑張って行って
頑張って帰ってきて
それを行って帰ってきただけと思われてて
あんまり感謝されてなくって
たとえ、それを幸せと呼ばなくてはならないと思うことがあっても
時々、本当につらいと気づいても……

 

 

スター

 

スター
それは誰もが憧れる存在
不動の人気者
みんなのヒーロー
そう、誰もがスターになりたいんだ
そしてある日
彼にだけチャンスは訪れた
目の前に魔法使いが現れて言ったのだ
ひとつ願いを叶えてあげよう、と
スターになりたい!
みんなの注目の的になるような
誰もが讃え崇めるような……
彼の願いに魔法使いは頷いて
わかった、願いを叶えよう……
そう微笑みながら
魔法の杖で
彼の頭部を滅多打ちにして潰した
彼はお星様になった

 

 

悪魔の見たもの

 

漆黒の悪魔は見た、棺桶のような狭い空間を
同時に、悟る
これから自分が、その中に押し込められるのだと……
漆黒の悪魔は見た、目の前の者が手に握る針を
また、悟る
これから自分が、その針の餌食になるのだと……
やがて漆黒の悪魔は、抵抗することも諦めたように
為す術もなく、狭い空間に横たわった
その瞬間
鋭い痛みとともに、針が悪魔に突き立てられた
悲鳴をあげるのも束の間
何か嫌なものがその身を襲う……
自らの清らかな血の中に
異物が汚泥のように流れ込んできたのだ
それが全身に染み渡るのを感じ取った悪魔は、叫んだ
何をする!
その耳元にすぐさま、答えは囁かれた
これから
あなたの
内蔵を見るの……
あまりの返答に戦慄する漆黒の悪魔は、見た
なめらかに言葉を告げたその口元を
そしてそのままニコリと微笑む、白衣の天使を

 

 

雨上がりの飛翔

 

私は空を見上げていた
窓辺の鳥かごの中
使わない羽根をたたんだままで……
雨は、いつの間にか止んでいた
あれだけ降っていたのが
まるでひとときの夢のようだった
今や空は
すっきりと晴れ渡り
眩しいくらい綺麗で
私はひとりぼっちだった


空を飛べるなら、追いかけたい
あなたを……


私は雨のことが好きだった
きっと永遠に忘れはしないでしょう
にわか雨に恋をした日を

 

 

失望の原理

 

失望の原理

ずっと報われなくて辛かった人生が
ようやく報われると安堵していた矢先に
その報いが虚偽だと知った時

ずっと良い異性と巡り会えなかったのが
やっと愛を誓い合う人と出会えたのに
それが第三者により引き剥がされ
二度と戻らぬ決別となってしまった時

ずっと叶えられなかった夢を
今ついに叶えられる機会を得た途端
その夢の業界が陰湿で汚い世界と知った時

そんなことが、たくさんたくさん
人生の中で何度も起きた時

まだ、もう一度
やった、今度こそ

そのすべてに意味が無いのだと
それらを無駄にやり尽くしてから知った時

 

妥協した人生が一番の幸福だったかもしれないと
取り返しのつかない年齢になってから気づいた時

 

 

人の音

 

人の音がする
口を開く音
目を開く音
そして耳を澄ます音が聞こえる
誰だ?
見えない……
どこにいる!
誰かがいるのはわかってるんだ
こっちを探っている
様子を伺っている
……向こうにも聞こえているのか
俺の音が

 

 

歩幅

 

きみの傍にいさせてなんてもう言わないから傍にいさせてほしかった
願いはもう、届かない
上を向いたら、涙が空を濡らした
本当に大切だった
でも僕は頭悪くて
その歩幅の差に気づかずに進み続けてしまった
振り向いてきみを置いてきたことに気づいて
きみを迎えに戻っても、もうきみはいなかった
きみの傍にいたつもりだった
ずっと一緒にいられると思ってた
本当は置いて行かれたのは僕のほうだったのかもしれない
今はもうきみのほうが歩幅は広い
だって僕は空を歩いて登れないから
どれだけ歩幅を広げたつもりでも届かないから、もう会えないんだ