水に乗る

 

私は目を閉じて、水に乗る
ゆっくりと、静かに、水面につま先を降ろす
まだつま先立ちで良い
踵はもっとゆっくりと、静かに降ろす
周りには何も無い
雨も晴れも無い
無色透明に冴え渡った空気
ただ清潔で、すがすがしい、シンプルな感覚
ここはとても心地が良い
何も考える必要もなく、好きなだけ水に乗っていられる
落ち着いた時間、愛おしい時間
波紋の広がる音に耳をそばだてて微笑む
幸せだ
思う存分、こうしていて良い
あぁ、私は思う存分こうしていて良いんだ
ただひとつだけ
決して目を開けてはならない


本当はそこには水面なんて無いのだから
私は地に足をついているのだから
そして周りには
クソまみれの現実が嫌という程ぶちまけられているんだ