2つの耳の後ろの、1つの幸せ

 

美しい歌声や、小鳥のさえずりや
愛する人たちの笑い語らう声を聞きたい
へたくそなピアノの音色でもいい
私を傷つけるための言葉だって構いません
何でも幸せ
すべてあわせて1つの幸せ
私を引き止める音が2つの耳の後ろから聞こえれば
それが1つの幸せ
そしたら私は振り返ることが出来るから
本当に本当の最後の幸せを求めずに済むのです
でももう何も聞こえません
もしかしたらその音は、後ろに実在するのかもしれないけれど
でももう何も聞こえないのです
だから私が振り返ることはありません
ずっと以前に見ることを失い
ちょっと前に話すことを失った私から
ついに聞くという残された幸せも消えました
私の2つの耳が求める、残されていたはずの幸せが
もう永遠に戻らないのです
歩くことはまだ出来るのが幸いして、旅立つ準備が整いました
これが本当に本当の最後の幸せです
2本の足のその先の、1つの幸せです