水中に酔う

 

私は目を閉じて、膝をたたんで抱え込む
背中をまるめて、うずくまった姿勢で
静かに水に沈んでゆく
ゆったりと、ゆるやかに、水中に身を委ねる
周りには何もない
上も下もない
ゆらりゆらりと、感覚をくるわせる
失われてゆく平衡感覚
でもそれが気持ちいい
好きな食べ物をいっぱい食べて
美味しいお酒を嗜んで
満足した気持ちで眠りにつくような
心が満たされて、でもふわふわした、複雑な感覚
ここはとても心地が良い
何も考える必要もなく、好きなだけ水中に酔っていられる
眠るように漂っていられる
幸せだ
思う存分、こうしていて良い
あぁ、私は思う存分こうしていて良いんだ
ただひとつだけ
決して目を開けてはならない


本当にそこは水の中なんだから
私はもう、そこから出ることができないのだから
そして最期の最期
初めて恐怖と後悔が押し寄せ、私は飲み込まれて終わってゆくんだ