古い顔

 

ここんとこ毎晩
わたしの周りに古い顔が浮かんどる
夜中、布団に入っとると特にわかる
部屋のなかの暗がりに
家内や、友人知人、今はもうおらんなった人たち
そしてわたし自身の
何十年も昔の、若い時分の顔が
古い、古い日の顔が
色の落ちた写真のように
ぼんやりと形の定まらん姿で浮かんどるのだ
笑ってもおらん、悲しんでもおらん
何の意思も感じん
ただそこにおるだけのように
浮かんどる
そして毎晩毎晩、日を追うごとに
少しずつ少しずつ、近づいて来とる
わたしの布団を取り囲む顔が
少しずつ、少しずつ、じわじわと
こっちに寄って来とる
わたしにはもう、怖いものはないと思っとった
だが今は、この古い顔たちが怖い
夜、布団に入っとるのが怖い
今夜もまた一歩、きのうより近づいて来とる