恋する死神

 

雨のなか、私が公園を突っ切って歩いていると
その少年は、いた
屋根の下のベンチに縮こまり
通り過ぎる私を、ぼうっとした眼差しで見つめていた
フードのついた黒い服に、白い肌
目は細めだが、端正な顔立ちをしていた
でも私は、その少年とはあまり顔を合わせないほうが良い気がして
少しだけ歩を速めた
次の日も私は同じ公園を通った
昨日はたまたま散歩がてらに通っただけだった
だけど、気になっていたのだ
また雨が降っている
いた
その子はまた縮こまるように座って
通り過ぎる私を見上げている
わざとらしく無視して、私は仕事へ向かった
次の日もまた雨だった
同じように座る少年
私はまた知らぬふりをして通り過ぎようとした、その時だった
その子が、私に話しかけてきたのだ
……あの
私はその声にびくりとした
立ち止まった瞬間、もう一度聞こえた
……あの
私は振り向いて答える
なぁに……?
少年は立ち上がり、私に近づいてきた
雨の下に、傘もささずに歩み出てきたのだ
だけど、それだけで何も話さない
もじもじと黙りこくっている
私は少し微笑んで、諭すように言った
ゴメンね、私今からお仕事なの、用事が無いなら、もう行くね……
私がそれだけを告げて立ち去ろうとすると
少年が急くように言葉を紡いだ
……あの、違うんです
……僕、あなたを知っていて
……見たことあって
雨に溶け込むようなその言葉を聞いて、私は再び振り向いた
同時に思わず声も漏れる
覚えてたんだ……
すると少年は微笑んだ
私はその表情を見て
彼の言葉に応えてしまったことに少し後悔しながらも
着物の両袖を胸元に寄せて続けた
ごめんね、本当は会わないほうが良いと思ったんだけど、つい……
そんな私の言い訳を聞いて、少年は少し寂しそうにしながらも
ぽつりぽつりと語った
……お母さんのこと、ありがとう
……僕もいつか、お世話になるかもね
彼のその言葉に私はかぶりを振った
ううん、君はまだこれから、ずっと生きていくの……
だからその頃には、私のお仕事は次の人が継いでいるかもしれない……
すると彼は少し寂しそうにしながら
……そっか
と一言だけ呟いた
だけどその眼差しは
伏し目がちながらも、未練などなく、清々しい輝きに満ちていた
私は少しだけ歩み寄って、彼と向き合った
同じ高さの目線が少しだけすれ違っている
その状態のまま、私は言った
私が連れてってあげたかったけど、ごめんね……
覚えててくれて、嬉しかったよ……
それだけ告げて、私は飛び立った
彼の目には消えたように映ったかもしれない
あまり顔を合わせていると良くない
私が私を見失う前に、離れるべきなのだ
いつの間にか雨は上がっていた
晴れ間から陽が差して、心地よい風が私の涙を払い落とす
私は着物をひらひらとたなびかせながら
どこか適当な道に降り立ち、次の仕事へ、向かった