心地よい不可解

 

物事は不可解なほうが心地が良い
だから人と話すのが好きなのだ
少し調べるだけで何もかもがわかりすぎてしまう現代でも
人の心はどれだけ検索しても出て来ない
目の前にいる人が今、何を考えているのかわからない
何でそんな行動をとるのか理解ができない
何かを企てているかもしれないし
こちらに何かをしようとしているのかもしれない
それがわからないのが心地いい
人間の相手は気持ちがいい
私たちがどれだけ考えても、検索しても、学習しても
アイツらだけはわからない

 

 

忘れられない綺麗な人

 

その人は女性にも見え
また、女性のような男性にも見える人だった
人生で一度だけ見たその人は
性別も年齢もわからない人だった
窓の外を眺め
電車に揺られながら
時折ゆっくりと瞬きをしていた
長いまつ毛がその度に陽光を揺らし
それが美しいことだけが、少なくともその瞬間は、世界のすべてになっていた
この人を目にすることが出来るのは今だけだ
それがわかっていて目に焼き付けて
焼き付いたまま離れずに生きてきた
この歳になって、今でもふいに思い出すその人は
ずっとそのままの姿でどこかにいるような気がするのだ……

 

 

可能性は人生の最後まで残ってる

 

可能性は人生の最後まで残ってる
希望の話じゃなくって
良いことも悪いことも
なんだって可能性は残ってるって話
最後まで普通の人生かもしれない
最後の最後に夢が叶うかもしれない
今更こんな大金が手に入ったところで……という年齢で
一発当ててしまうかもしれないし
あるいは生涯裕福だったのが一転して
孤独でみじめな末路を迎えるかもしれない
あなたにも私にも残ってる
良い可能性も悪い可能性も残ってる
最後なんて誰もわからない
良い人生だった、嫌な人生だったと、振り返る暇さえあるのかも……

 

 

死に写しの双子

 

あなたはだあれ?
あなたの双子
私の双子?
あなたの双子
そんなの可笑しいわ、私は一人っ子だし、あなたは死んでいるのに
ええ、あなたは一人っ子で、私は死んでいる、でもあなたの双子になるの
そんなの嘘よ、あなた、ほんとは誰なの?
あなたの、幽霊、あなたになりたかった、幽霊よ
私と入れ替わるつもり?
いいえ、あなたが死ぬのを待ってるの、あなたと双子になるために
……
はやくしろよ

 

 

ずっと、そこに、いる

 

ずっと、そこに、いる
私が見ていても
見ていなくても
私が気づいていても
気づいていなくても
関係なく、そこに、いる
こちらを、見ている
伺っている
そして、いつしか、そばに、いる
気がつくと、近くに、いる
そんな気配は、なかったのに
……いつの間に、そんなところにいたの、君は
そう話しかけると、一声鳴くので
私はいつも、顎を、撫でてやる