今思えば

 

今思えば
私が消える度、悲しんでくれた誰かがいたのでしょう
今思えば
私にとって、大切な誰かなんて山ほどいたのでしょう
その人たちをどれだけ忘れてきたのだろう
出会いと別れを
いったいどれだけ繰り返してきたのだろう
さぁ、貴方も
どうか幸せに
そのために私のことを忘れていいから
貴方が幸せになれるなら
それでいいから
また会う日に笑顔でいるために
また会う日なんてないけれど
……あぁ
もしかしたら
こんな惜別の言葉すら、今まで何度も言ってきたのかもしれない
でも繰り返しだっていい
貴方も今までの誰かと同じでいい
私のことを覚えているまま生きていかないでほしいから

 

 

未来

 

未来が実ったの

電話口からの君の言葉に、僕は涙した
君は小さい頃から明るい子で
よく将来の夢なんかを語っていた
お互いの家で
同じ通学路で
幼稚園で、小学校で
中学の帰り道でも
君の口からあふれる言葉は
未来を夢見た明るいものばかりだった
高校の頃は少し話さなくなったけど
大学を経て、大人になって
またよく話すようになっても
君は未来をいつも見据えていた
可愛くて、どこかぽわぽわしていて
変なところで笑ったり泣いたりするけど
未来を語る口と目は確かなものだった
僕はそんな君が、小さい頃から好きだった
だけど君にはいつの間にか
ほかに好きな人ができていて
そしていつの間にか
その恋は成就していた
僕には、まったくそんな話はなかった
ある晩の電話でようやく知らされた

未来が実ったの

電話口からの君の言葉に、僕は涙した
僕は平気なフリして、本当は泣きながら
おめでとう、と言った
鼓動が後悔で高鳴り、足が震えた
君が小さい頃からいつも話していた話には
将来の夢や未来の話には
僕は最初からいなかったのだ
……僕が夢見ていた君との未来は消えた

実ったの
実ったの

頭の中でこだまする言葉を聞きながら
僕は自分の未来を何もない場所に捨てた

 

 

 

あなたの身体に
小さな小さな穴をあける
少しずつ少しずつ
丁寧に穴をあけてゆく
死なないように
死なないように
愛しているわ
愛しているから
泣かないで
泣かないで
痛いの痛いの飛んでゆけ
飛んでった?
じゃあ、次の穴をあけてあげるね

 

 

おもちゃみたいな宇宙

 

僕は小さい頃から
こんなおもちゃみたいな宇宙ひとつ
救えない奴にはなりたくないと思っていた
そう思われるのも嫌だった
だからこのおもちゃを
ひとつ直してみようかと思う
そこで、例えばね
握り潰された花を再生する力……
それはまさしく天使の成せる業だけど
けれども人はその演出のために、逆再生を使う
天使を演じるために
花の再生を演じるために
逆に花を握り潰して、映像を作る
そうやって不思議な力を演出する
それを見た人はどう思うだろう
純粋な人は、その力に天使を見るだろうか
だから、つまりね
僕はヒーローになりたいんだ
宇宙を救う演出のために、一度潰す
純粋な人は、僕の力に正義を見るだろうか

 

 

ずっと追って来ていた

 

ずっと追って来ていた
俺が寝ている間に
仕事をしている間に
食事をとっている間に……
今から逃げても間に合うだろうか
きっとどこに隠れようと
迷うことなく一直線に向かって来る
扉も鍵も意味は無い
今からでいいからとにかく逃げよう
こんな生活なんて捨てて
どこか見知らぬ遠い国で暮らそう
そこでまた、追いつかれそうになるまで

 

 

私がいつの間にかいなくなっても

 

私がいつの間にかいなくなっても
あなたは気付くかしら
あなたには大切なものが多すぎて
生きて行く毎日が充実していて
すべてのものに
その目を輝かせていて……
そんなたくさんの中から、例えば
私がいつの間にかいなくなったとして
あなたは気付くかしら
では一度だけ、永遠に消えてみせようか
是非その瞬間を知らずに過ごして
後で気付いた時にでも悲しんでください

 

 

リンゴの味

 

私だけ目覚め、林檎をひとつかじる
隣で眠るあなたの横顔を撫でる
この人は誰かしら
それに、ここは何処なのでしょう
そういえば、私も誰なのかしら
あなたも夢から覚めた時には
自分のことがもう分からないでしょうか
そしたら林檎を一口あげましょう
林檎の味がわかって、あなたも幸せでしょう

 

 

……あなたはいつ頃、目覚めてくれるのですか?
何日も経って
私が痩せるばかりで
せっかくとっておいた林檎が崩れてく
あなたの寝顔が崩れてく……