忘れられない綺麗な人

 

その人は女性にも見え
また、女性のような男性にも見える人だった
人生で一度だけ見たその人は
性別も年齢もわからない人だった
窓の外を眺め
電車に揺られながら
時折ゆっくりと瞬きをしていた
長いまつ毛がその度に陽光を揺らし
それが美しいことだけが、少なくともその瞬間は、世界のすべてになっていた
この人を目にすることが出来るのは今だけだ
それがわかっていて目に焼き付けて
焼き付いたまま離れずに生きてきた
この歳になって、今でもふいに思い出すその人は
ずっとそのままの姿でどこかにいるような気がするのだ……