綺麗な場所でしょ
ここではね、失った人のことを考えてはいけないの
連れて行かれるから
連れて行かれて
そうして自分という存在も失うことになるから
私?
私も、失ったよ
ものすごく大切な人だった
他の何者にも変えられない、掛け替えのない存在だった
あの人のことは、全部覚えてる
綺麗な場所でしょ
ここではね、失った人のことを考えてはいけないの
連れて行かれるから
連れて行かれて
そうして自分という存在も失うことになるから
私?
私も、失ったよ
ものすごく大切な人だった
他の何者にも変えられない、掛け替えのない存在だった
あの人のことは、全部覚えてる
信じられないくらいあっという間に一日が過ぎ
その一日が繋がって長い長いひと月が終わる
ひと月ひと月も瞬く間に過ぎ去り早一年
一年はつらつらと繋がり、私の長い長い一生となる
生まれた頃からだったか
空きビンに月のかけらを溜め込んでいた
かけらたちが少しずつビンの中で身を寄せ合い
私の一生を費やして、ひとつの月となる
月は形を成してはじめて歌をうたう
その歌は私のくだらなくもそれなりに壮大な人生を
あっけらかんとまとめあげ、しれっと終わる
けれどそれが、とてつもなく美しいという
やがて歌い終わった月はまたかけらとなる
そのかけらを、私の次の誰かが別のビンに移す
その人で同じことが繰り返される
月は狭いビン詰めの宇宙で
散逸と形成を永遠に繰り返し、歌い続ける
その度に歌はすべて異なり
同じものはひとつと歌われないのに
私は、そのうちのひとつにしか立ち会えないのだった
いつの間にか立ち去っていた
別れの言葉にも気づけなかった
ひとつくしゃみをすれば笑われた
ほんのちょっと前のことなのに
こんな最近の思い出が懐かしいだなんて……
そう思う度についため息がこぼれる
やだなぁ、今日はいつも通りの日なのに
もう会えない以外、いつも通りの日が続くのに