トオイヒノキオク

 

遠い日の記憶
私は雪のなか坂道をくだって
街角の骨董店にやってきた
木で出来たかわいい人形を買って
帰ってお母さんに自慢した
大人になって母に話すと
そんな場所に行ったことは無いという
私の家の周りは平地だ
骨董店も近くに無いし
雪の降る地域でもない
思い当たる場所に旅行に行ったことも無いらしい
木の人形は今でもあるのに

 

 

霧にたたずむ

 

霧にたたずむ人を追う
そこに立って待っていた気がするのに
行くといなくなっている
いつまで経っても追いつけない
毎回毎回
私がいることに気づかずに行ってしまうのだ
最近それがだんだんわかってきた
霧にたたずむ私がいるのに
誰もいないと思っているのだ
助けを求めているのは一緒のはずなのに
私もその人もあの人もみんな
誰にも見えていないんだ
誰にも振り向いてもらえないんだ

 

 

空に降る砂

 

私は地面を歩かない
この場所は嫌いだ
安心できて
大切な人もいて
充実していて
地に足をついている場所
手を伸ばしても届かない空こそ
危なくて
誰もいなくて
寂しくて
足もふわふわ落ち着かない
なのに、憧れる
目を閉じて想像してみる
世界を砂時計のようにひっくり返して
空に落ちて行く私
空に落ちて行く木々

大地
たくさんの、砂
全部落ちるまでにかかる時間
それを待ってから、目を開ける
落ちたすべてがそこにあり
安心できて
大切な人もいる……
地面だ
私は地面を歩かない
この場所は、嫌いだ

 

 

世界を終わらせる旅に出る

 

世界を終わらせる旅に出る
僕が世界を終わらせる
主人公が冒険をして
仲間を集めて
悪い奴を倒して
世界を救う、その前に
僕が先に冒険をして
仲間を集めて
いつか主人公を倒すような
悪い奴になる
悪い奴になって
世界を終わらせる……
そのための旅だ……
追いついて見せてよ
倒して見せてよ、僕を

何度でも何度でも終わらせてみせるさ
何度でも何度でも旅に出てみせるさ
僕が旅を始めなければ
誰も主人公にならないから

 

 

霊缶

 

あなた霊缶持ってるの?
私持ってないの
持ってると便利?
持ってると怖くない?
そっか、やっぱり怖くないんだ
え?
霊感持ってないの?
だから怖くないのね
私は持ってるの
霊感持ってるの
だからいつも周りに見えて
とても怖いの
つかまえておきたいのに
持ってないの
霊缶

 

 

美人(仮)

 

とても綺麗な人だと思います
とても素敵な人だと思います
好きです
仲良くなりたいです
すごく可憐な人だと思います
すごく優しい人だと思います
思うだけです
本当はわからないです
でもきっとそうです
会ったことないけど、わかります
画面の文字の向こうのあなたは、美人です