恋人の鳴らす笛

 

どうして戦争が始まったかなんて、覚えていない
ただ大きな川を挟んで
お互いに違う国に引き裂かれた僕らにとっては
川を越えられるかどうか以前の問題がそこにあったのだ
だからいつも笛を鳴らす
僕が鳴らすと、対岸の国から
今度は彼女が鳴らす笛の音が聴こえる
そんな些細なやりとりは何年もかけて、毎日続いた
僕は
私は
まだ生きています

ただひとつだけ、それだけが希望なんだ
今日も笛を鳴らそう
対岸に見える国境の壁に向かって……