他人事

 

迷い猫は雑踏に消える
その口に手榴弾を咥えて……
黙ってその場を離れてからも、知れないその後に後味が悪い
助けたことにしよう
これで大丈夫、私の中では生きているから
その日から猫を飼い始める
私の中で助けた猫を、私の中だけで……
実在しないご飯を頬張り、実在しないベッドに横たわる
おなかいっぱい、嬉しいね
私の中の実在しない私が、実在しない猫を撫でて微笑む
私の中の実在しない私と猫はなんだか眠くなって、眠りについた
実在する眠りから覚めた私を、朝の光が残酷に差す
黙ってその場から起きあがって、裸足のままで外へ歩き出す
裸足で歩く私を、私の中の実在しない猫が追いかける
裸足で歩く私は、遠くに乱れる銃声を聞き
私の中の実在しない猫に、怖いね、なんて話しかけてみる
あぁ、あの時助けてよかったなぁ
銃声を聞きながら裸足で歩く実在する私の中の、実在しない私が思う
あぁ、あの時助ければよかったなぁ
銃声を聞きながら裸足で歩く実在する私が思う
その時、銃声を聞きながら裸足で歩く実在する私の足元におもちゃが落ちていて
銃声を聞きながら裸足で立ち止まった実在する私は、それを拾い上げる
だけど、銃声を聞きながら裸足で立ち止まった実在する私の中の、実在しない私は
足元におもちゃは落ちてなかったから拾わなかったし、立ち止まらなかった
銃声を聞きながら裸足で立ち止まった実在する私の手の中から光が残酷に射す……
銃声を聞きながら意識が遠くなっていく実在する私の中の、実在しない私は
銃声を聞きながら意識が遠くなっていく実在する私の中の実在しない猫と歩き続ける
やがて銃声も聞こえず意識も呼吸もない実在する私の体は動くことはなくなった
……だけど実在しない私と猫には、他人事