後ろから来てる

 

後ろから来てることに気づいたのは随分前だった
それが知っている誰かだと思ったのは、それより少し後だった
振り返る覚悟を決めても振り返れないまま時は過ぎ
私のささやかな覚悟は再び思考の底に沈んだ
その浮き沈みも既に何度目かだった
次に覚悟がまた浮かんできたら今度こそ振り返ろう
そう思ったのも何度目かだった
振り返れない
振り返れない
ずっとずっと、振り返れないでいる
怖いだけじゃない、知っているその誰かが誰なのかを知りたくない
知っている誰かだ
恐ろしいほどに、知っている誰かだ
それが誰なのか知ってしまえば
今この時だけでなく
まったく無関係な別の大切な時間も恐ろしいものになってしまいそうで……
あぁ、後ろから来てることにもう少しだけ早く気づいていても
きっと何も変わらなかっただろう
私はこのままどこまで歩き続ければ良いのだろうか
可能ならば、永遠にこれを続けていたほうがまだ良い
だが確実に、後ろから来てる誰かと私との距離は縮まりつつあるのだった