私は空を飛べないの

 

ロッカールームで着替え終わった時
誰かの呼び声がした
窓から聞こえた気がして開けてみると
となりのビルとの間に、小さな空が見えた
その空がとても綺麗で
私は飛べるような気になってしまった
さっきの声がまた聞こえた
空には、今までに私が会わなくなっていった
たくさんの人たちがいた
どの人も、少し仲良くなったことのある人たちで
そういえば最近ずっと会ってないな
っていう人たちばかりだった
みんな懐かしむように私を呼んでいた
嬉しくなって身を乗り出したけど
ふと気づいて首を振った
ごめんなさい
私は空を飛べないの
みんなの場所には行けないの
その日の仕事は頭がフワフワして落ち着かなかった
帰り道、今度は広いところで空を見た
澄んだ、やわらかい光に、涙をこぼした
私は空を飛べないの
なのにみんな、行ってしまう
いつか、お父さんもお母さんも
友達も
将来結婚する人がいたとして、その人も
子どもや、孫も、ひ孫も
あと、街ですれ違う人たちや
会ったことのないどこかの誰かも
知らない国のお偉いさんとか
貧しい誰かも、金持ちも、アメリカの大統領も
今これを読んでるあなたも
みんなみんな
みんなみんな
そうして私はそのうち
世界で一人だけになるんだ
誰もいなくなった地球の上で、一人ぼっちになるんだ
私だけが、空を飛べないのだから