写真にはうつらない女の子

 

写真にはうつらない女の子
姿の残らない女の子
綺麗な顔
なめらかな肌
お洒落な洋服
らしい
よく笑い
よく怒り
よく眠そうにしている
らしい
僕は知らない
その子の写真を見たことがないから
その子を知っている人に聞いて
どんな子か見てみたいのに
誰も写真を持ってないんだって
誰だって写真に撮ろうとするのに
写真に撮ると、そこには誰もいない
らしい
だから僕は、会うことにしたんだ
共通の友人に約束をとってもらって
ある日、僕はその子を紹介してもらった
約束の喫茶店で席につくと友人がいて
この子が例の女の子だよ
と、紹介してもらえた
そう言って紹介してもらえた、はずなのに
その椅子は空席だった
紹介してくれた友人は
それから隣の空席と談笑をし始めた
僕の耳には友人の声しか聞こえない
やがて呆れたように僕が腰を浮かせた時
友人がそれを制した
ごめんごめんw
冗談だってw
話を聞くと
皆で口裏を合わせて、僕をからかっていたらしい
そんな女の子は最初からいないよ、だとさ
どこまで僕が信じるか
試してやろうってことみたいだった
友人は言った
まぁ束の間の不思議体験みたいなもの、味わえたでしょ?
それを聞いて、ため息が出た
勘弁してくれよ
そんなことを言っていると
茶店の店員さんがパフェを持ってきた
頼んでないです
友人が言うと店員さんは続けた
先ほどお連れの女性の方が頼まれましたよ?
僕と友人は顔を見合わせ
次いで空席に視線を移した
まさかね
友人が笑うのを無視して、僕はスマホを取り出す
空席をスマホで撮影し
写ったものを確認した後
それをそのまま友人に、画面を向けて見せた
写真には
パフェの前で微笑む女の子が写っていたのだ
友人はみるみる青ざめていく
それを見て、僕は笑った
ごめんごめんw
冗談だってw
実は店員さんは僕の知り合いだった
あらかじめパフェを持ってくるよう仕込んでおいたのだ
説明すると友人は泣きそうな顔のままホッとして
飽きれた口調で
そっちこそ勘弁してくれ
と不満をこぼした
僕は、自分が皆にからかわれていることを知って
発案者だという友人にやり返したのだ
友人は悔しがりながら
それにしても
と続けた
そんな写真までよく用意したな、と
事前に撮っておいたのか、と
僕はまた笑って、言った
これは本当に今撮った写真だよw
今日このために僕が連れてきたんだw
写真にだけうつる女の子を……