包丁の海

 

包丁の海に飛び込んで
銀色にきらめく波間を泳ぐ
体をうねらせて、すすむ
さらり
さらり
滑らかに体に入り込む刃
次々と、腕に、脚に
不揃いな角度で
たくさん入ってくる
その度に失われて
もう元には戻らなくなっていく私の体
……少なくなっていく
私が、少なくなっていく
……
やがて銀色の海は鮮やかになり
そこにいたはずの私はいなくなる
私は、私が無くなってしまうまで
きらめく波をその身に受け入れたのだ
そして痛みも何もかもを引き連れて
そぎ落とされた無数のかけらとなって
包丁の海の、暗い底で
ひとり静かに眠りにつくの