導きの魔物

 

魔物さん魔物さん
病院への行き方教えてよ
ならばこの道を行くと良いぞ
魔物さん魔物さん
今日はお花屋さんへ行きたいな
ならばこっちへ向かうが良い

魔物さんは町の片隅で
石像の姿で佇んでいた
古い古い建物の
雨どいの角に張り出して
道行く人々を見下ろしていた
魔物さんは周りに誰もいないとき
僕にだけは道案内をしてくれた

ある日、僕の大切な人が死んだ
僕は魔物さんに会いに行った

魔物さん魔物さん
墓地への行き方教えてよ
ならばあっちに進むと良いぞ
魔物さん魔物さん
お花屋さんって何処だったっけ
それはこっちへ行くが良い

魔物さん魔物さん
僕もあの娘のところに行きたいよ
……
魔物さん魔物さん
僕も同じところに行きたいんだ
……

魔物さんは答えてくれなかった
そしてそれきり
どこにも案内してくれなくなった
ある日僕は
久しぶりに魔物さんに会いに行った
ひとつだけ、聞きたいことができたのだ

魔物さん魔物さん
僕のこれからの生き方教えてよ
ならば目標を作って目指すが良い
毎日何かを目指すだけで
それなりに生きていけるものだぞ
魔物さん魔物さん
ありがとう

魔物さんは初めて笑った
次の日
魔物さんのいる建物は
古くなりすぎて壊されてしまった
空き地になったその前を通るたび
僕は魔物さんを思い浮かべた

病院も墓地も、お花屋さんだって
本当は知ってて聞いていた
僕はいつも君と話がしたかったんだ

あれから新しい建物が出来た
今でも僕は
何もない建物の角を見上げては
あの悪魔のようなやさしい姿を思い出す