霜焼け

 

僕は姉が、好き、だったのかもしれない

ある梅雨の日に、事故で失った姉
今でも夢に出てくる、姉
あの時花瓶が倒れて
床が汚れ
花は枯れた……
僕のせいだ
ちゃんとわかってる
今日もひと雨来そうだ
……
この季節の雨は嫌いだ
いつ雪になるかわからない
一緒にスキーに行った日を思い出す
暖かかった手も……
くそ、足が痒い
冷えたつま先が焼けるようにひりつく
白く浮かぶため息
もうすぐ春なのに
春が来ない
そしていつの間にか梅雨がまた来るのだ

学校から帰って、階段を登る
その先にいつも見えるドア
姉の部屋
横目に通り過ぎて、隣の自室に向かおうとした瞬間
姉の部屋のドアが開いた
ガチャリ……
背後からの幽かな音に、振り向かずに立ち止まる
……来ないの?
声が聞こえた
姉の声だ
振り向くと姉の部屋のドアは少しだけ開いていた
時々開けていたドア
嘘だ
毎日開けている
暗い、カーテンを閉め切った部屋
周りには家具がそのまま並んでいる……
そのはずだった……
なのに、その先は
真っ暗闇の空間だった
今いる廊下の明かりだけがドアから中に伸びて
僕の陰を床に映し出している
その先に何かが浮いていた
黒い枕のような袋だ
黒い袋が浮かんで、ゆらゆら揺れている
姉だった
僕が最後に見た……
……
気づけば暗闇に踏み込んで
僕は泣きながらそれを抱きしめていた
僕は姉が、好き、だった
……私も、好きだったよ
姉の言葉と同時に
背後から伸びていた光が細くなってゆき
やがてガチャリという音とともに完全に断たれ
周りは完全な暗闇に包まれた
そうなることはわかっていた
わかってて踏み込んでいた

……今夜は一緒に寝ようね♪
その言葉に、僕はひとり目を閉じ、微笑んだ