5年後の私が会いに来る

 

12歳、私は桜の木の下で、彼に告白をしていた
ごめん
その返答に泣き出した私をよそに去って行く姿
立ち尽くしていると木の陰から彼女は現れた
それは5年後の私だった
そして言うのである
……大丈夫、もっとつらい別れだってある

5年が経った
17歳、私は学校の帰り道、川沿いの土手で
付き合っていた恋人に別れを告げられた
他に好きな人が出来た
彼の去り際のその言葉に呆然としていると
いつの間にか彼女は後ろに立っていた
それはさらに5年後の私だった
そして言うのである
……大丈夫、もっとつらい別れだってある
それを聞いた私は、自らも5年前に向かった
そして同じ言葉を12歳の私に告げ
非難めいた反応を後目にまた帰ってきたのだった

5年が経った
22歳、私は一人暮らしの自宅で、彼と向き合っていた
浮気を問い詰めているのだ
開き直った言いぐさに憎しみを募らせ
彼を部屋から追い出すと
いつの間にか彼女が部屋の中にいた
それは5年後の私だった
出てくる言葉はわかっていた、黙って聞く
……大丈夫、もっとつらい別れだってある
わかったわよ
そう返して、また私は告げに向かうのだった

5年が経った
27歳、私はレストランで婚約者と向き合っていた
嫌な予感は当たった
婚約破棄の話を申し出された
私の親の反対を、私が押し切れない日々に
彼は限界を感じていたのだという
こんな展開を予測していても私は取り乱した
彼だけは逃したくなかった
けど、彼の気持ちは変わらず
やがて深々と頭を下げて出て行った
いつの間にか真後ろの席に彼女がいた
それは5年後の私であろう
中越しに声が聞こえた
……大丈夫、もっとつらい別れだってある
疲れ切った声だった

5年が経った
32歳、私は喪服を着ていた
あれからまた別の人と縁があり、結婚し
そうしてようやく幸せを手に入れた
そう思っていた
私は、その夫を交通事故で亡くした
通夜の参列者の中に紛れて、彼女がいた
5年後の私だ
私はつかつかと歩み寄った
いつの間にか周りには誰もおらず
私と私だけの空間になっていた
もしかしたら今までもこうだったのかもしれない
でもそんなことどうでもよかった
……大丈夫、もっと
そう言いかけた彼女の襟を、私は掴み上げた
いい加減にしてよ!
いつまで……
言葉はそこで詰まってしまった
彼女のそのうつろな顔を、表情を、見てしまったから
私は力なく手を離し、一歩下がった
……大丈夫、もっとつらい別れだってある
その言葉を、黙って聞いた
黙って聞くしかなかった
だって、きっと彼女も言われて来たのだから
……大丈夫、もっとつらい別れだってある