君も好きだけど君も好き

 

私はむかし、彼が好きだった
でも違う人も好きだった
ふたりともそれは知ってた
知っててふたりとも仲良くしてくれてた
決してどちらとも恋人にはなれないままで……

ある日の学校からの帰り道、雨が降った
私は傘を持っていなかった
彼も、傘を持っていなかった
彼は私の手をとって走り出した
高架下へと向かって
雨宿りしようぜ、って
その途中、傘を差すもうひとりに呼び止められた
入ってけよ、って
私は雨の中で立ち止まった
来いよ……
入ってけよ……
私は、選べなかった

今まで続いてきた3人の関係の中で
選択の場面なんていくつもあった
でも、その日は違った
卒業式だったのだ……
雨に濡れたまま、時間だけが過ぎる
耐えきれず私は泣き出してしまった
ごめんなさい、私は
君も好きだけど君も好きなの
3人で傘に入れないの?
3人で雨宿りじゃダメなの?
私たちは雨の中、立ち尽くした
3人はちょっと無理だろ……
俺も今日、早く帰らなきゃ……
そんな些細なやりとりの後
私たちはそれぞれの帰路についた
結局私は、ひとり雨に濡れて帰ったのだ
そして、それからもう会わなくなってしまった

好きな人は1人じゃなきゃダメなんだ
そうじゃないと、2人とも失うことになるから
二兎を追うものは……
そんな言葉あったよね
たったひとつのことわざが
今ではこんなに重たくなるなんて…
私にはもう
誰も好きになる資格はないのかもしれないね