鏡に映らない生活

 

鏡に映らない生活をする
鏡が怖いわけじゃない
自分が嫌いなわけでもない
ただ自分という概念をリセットしたい
それだけの理由で始めたことだった
どんな顔で
どんな髪型だったか
どんな目をしていた?
鼻は?
口は?
一週間で不安になった
一か月で思い出せなくなった
鏡を避ける
反射するものを避ける
半年が経った
人と会って話す時に不思議な感覚を味わうようになった
ゲーム画面のように感じるのだ
目の前の人が
キャラクターの立ち絵のように見えるのだ
主人公の姿がない、キャラクター物のノベルゲームのようだ
私、という姿がない世界に来たみたいだ
一年が経った
私はどんな目をしていた?
眉毛をしていた?
声をしていた?
名前は?
住所は?
どうして私は
鏡に映らないんだ?