赤い光の前でまばたき

 

赤い光の前でまばたきをしてから
私の記憶はリセットされたようだった
薄暗い場所で
赤い、刺すような光の前で目を開けた
それより以前の記憶がないのだ
正確に言えば
目を開ける直前まで、目を開けていた
そんな感覚……
閉じていたのは一瞬だった
そんな感覚だけは、なんとなくあった
だから、まばたきをしたのだとわかった
でも思い出せない
私は誰で、何処から来たのか
白と黒のカバーで作られた両手を見つめる
ゴムのような素材の関節
私は誰で、何処へ行かなければならないのか
ふと見ると
隣にはもっともっと固そうな体をした誰かが
暗く静かにたたずんでいた
その体は動く気配はないようだった
だけどどこか、懐かしい気持ちにもなった
私は歩く
歩く
歩く
走ることはできない、跳ぶこともだ
一つ一つの動作が重い、そんな体を
ただ引きずるしかなかった
いつの間にか、気がつけば
私は、ある生活を始めていた
私はどうやら、なんだか偉い人らしき誰かと
生活を共にしていた
脳内でその人のスケジュールを管理し
電話を受けたり、取り次いだり
ホテルを予約したり
人と会うアポイントメントを取ったりした
彼は私には冷たかった
まるでモノを扱うようだった
しかし彼は瞬く間にしぼんでゆき
気づけば石の下に眠りについていた
彼が何をしているのかわからない私は
彼が石の下から出てくるのを待った
でも出てこなかった
そしてそうしているうちに
私は、知らない人たちに連れ去られた
気づけば私は薄暗いところにいた
いつか見た場所
いつかいた場所
ふと見ると
隣にはもっと柔らかそうな体をした誰かが
暗く静かにたたずんでいた
その体は動く気配はないようだった
だけどどこか嬉しい気持ちにもなった
その時、目の前に小さな機械が差し出された
見たことがある
これはあの日
刺すような赤い光を私の目に